NHK「発達障害って何だろうスペシャル」(2018年11月24日放送)。この番組、とても良かった。以前から発達障害に該当する人はいたんだろうと思う。でも、それが社会的に発見されている。問題は、発達障害に該当する場合であっても、生活しやすい、しにくい、仕事がしやすい、しにくいは環境が規定すること。このお三方の事例はとても、勉強になる。
姫野カオルコ『彼女は頭が悪いから』文藝春秋社、2018年。東大生らによる女性集団暴行事件を手がかりに着想された小説。あくまで、フィクションだが、実在の事件を相当意識した中身となっている。主人公は二人。東大在学中の男性と、女子大在学中の女性。小説は二人が大学に入る前から始まる。男性は高校時代から東大目指して受験の準備をする。偏差値エリートである。女性は地元の平均程度の高校に通う。いたってふつうの女性である。
大学生になったふたりは偶然出会い、恋に落ちる。しかし、その恋愛は長くは続かない。そして、ある飲み会で事件が起きる。男性の友人も含めて、飲み会で自宅に連れ込まれ、乱暴・暴行を受ける。集団暴行事件が明らかになる中で、男性たち自身も性行為を望んでいないし、実際にしていなかったということが明確に語られる。本書では、ただ単に、東大生が、東大生以外の女子学生を見下して、嫌な思いをさせること。その1点に問題の根深さを求めている。
全体として実際に報道された事実の嫌な感じが存分に描かれている。こうした事件が起こると、「女性にも過失があったのではないか」とバッシングされる状況にも、警鐘を鳴らしている(小説なので、具体的にそう指摘しているわけではない)。小説では事件そのものよりも、数年前からの当事者の生活、家族構成、などを丁寧に描くことで、必然的にその事件が起こったように描写している。読んでいて気分は良くない。むしろ吐き気を催すような描写がある。けれども、日本のハラスメント体質、上下関係、学歴社会に規定された男女間格差。これをものすごく見事に描いているように思える。
大学の広報誌用の写真撮影のため、講義途中からカメラが入る。途中までは調子良かったのだけれど、なんだか見られている観があって、テンポ悪くなる。カメラがカシャカシャ、大講義室。事前に分かっていたのだけれど、調子狂う。小市民。だめだ、こりゃ。
「日本企業の海外生産を支える産業財輸出と深層の現地化」という論文(『 一橋ビジネスレビュー』60(3)、2012年)を、面白く読んだ。生産設備の現地調達をしてこそ、本当の現地化。価格低下でシェアも増えるので、付加価値も増大する。付加価値もふえるから、国内産業の空洞化には、つながらない。その主張の妥当性は、正直よくわからない。けれども、深層の現地化が進めば、シェア拡大するというのは、特別剰余価値をめぐる競争みたいだ。図もそうした感じを抱かせる。その点でとても面白い。
いつも思うが、ものづくり経営学とマルクスの競争論は親和性高い。ただし、ものづくり経営学は、労働問題を扱う視点がない。競争優位の構造を分析するため、労働問題を、むしろ例外的な事象として扱っているようにみえる。
講義資料を事前アップロードすると、授業参加者は減るだろうか。講義に出ないと整理できないレジュメにしてあるのだけれど、因果関係はわからない。レジュメ・資料をDLし、教科書をよんで、該当部分に理解をしておく。授業で聞きたい内容にフォーカスをあてる。そこにねらいがある。
ある程度、当日の質問を受け付ける。事前に調べてきたことなどをまとめさせて発言させる。それに対するリアクションも与える。事前準備の成果が見えるような対応が必要なのだろうと感じつつある。ただし、いかんせん200人を超える授業でそれができるのか。上記を完全に遂行したら、それはゼミになる。
マネーワールド第2弾。AI・機械化による資本主義の変容。AI導入によって定型的な仕事は減少する。たとえば、ショッピングモールでは、営業時間外の清掃は、すでに清掃ロボットが代替しているケースがある。他方で、創造性を必要とする仕事、たとえば、AIを開発するエンジニア、人間の視覚に訴えるグラフィックデザイナー、これらは人間にしかできない仕事として残る。定型的な仕事を失った労働者はどうするのか。生活保障の枠組みとして、注目されているのがベーシックインカム構想。諸外国では財源確保して、実践に移している場合もある。
ソフトバンクの孫正義氏。前進するところを止めるのはいけない。拡大された富を分配することが必要。ロボット税のような形で、トップランナーの足かせをすることには反対。
国立情報学研究所教授の新井紀子氏。才能を持つ人間は全体の数%。残りの99%は定型的な業務に従事する。資本家の立場から、「おまえらがんばれ」というのは、責任転嫁ではないか。また、ベーシックインカムの財源については、法人税強化の手法があるが、企業の海外展開というやっかいな問題がある。
番組は機械化と資本主義に関する古典的な議論の再編ともいえる。付加価値の拡大にともなう分配をどうシステム化していくのか。資本家的な立場では、生産性の上昇、収益の拡大、それを可能にする税制優遇が前提だと理解する。他方で、労働者の立場では、賃金抑制では、生活基盤がなりたたない。経済の基盤は消費の底上げなので、最低生活保障の基盤は必要ということになる。
司会の爆笑問題の太田氏が、「成功者の意見」として、孫氏をたびたびつっこむ姿が面白い。また、新井氏が「孫さんは法人税の引き上げには賛成なのか」とたずねたのにたいし、孫氏は「法人税そのものは必要、ただし、その水準は議論の余地ある」とこたえるシーンがある。孫氏は法人税そのものは否定せず、その水準の問題に絞っている。機械化と資本主義をテーマに掲げるこの番組を象徴するシーンだといえる。
全体として、授業などでも使えそうなわかりやすい解説と、テンポよい会話が魅力的な番組である。
ペンタゴン・ペーパーズ。米国のベトナム戦争時代の最高機密文書が流出した。当時の国防長官が、数年前から勝てないことを分かりながら派兵を続ける。国民に嘘をつき続けてきたと、大問題となる。ニューヨークTIMESは3ヶ月かけて、機密文章を分析。スクープ報道するも、ニクソン大統領は、TIMES誌を告訴。司法判断で記事差し止めを言い渡される。ライバル会社のワシントンポスト誌は、独自ルートで機密文書の情報源に接近。4000ページに及ぶ文書をつかむ。
問題は、この文書をどうするか。顧問弁護士や経営者層は、ワシントンポストが廃刊になると難色を示す。現場の記者と編集主幹は記事の掲載をおす。最後は社主の判断。社主は国防長官とも個人的に親しい。どうするか。真相に迫るため、公表を決断する。ワシントンポストの社主役のメリル・ストリープ、編集主幹役のトム・ハンクスの好演がひかる。とくに公開前日のやりとりが、切迫感があって、引き込まれる。
https://www.newsweekjapan.jp/ooba/2018/03/post-49.php?t=1