姫野カオルコ『彼女は頭が悪いから』文藝春秋社、2018年。

 姫野カオルコ『彼女は頭が悪いから』文藝春秋社、2018年。東大生らによる女性集団暴行事件を手がかりに着想された小説。あくまで、フィクションだが、実在の事件を相当意識した中身となっている。主人公は二人。東大在学中の男性と、女子大在学中の女性。小説は二人が大学に入る前から始まる。男性は高校時代から東大目指して受験の準備をする。偏差値エリートである。女性は地元の平均程度の高校に通う。いたってふつうの女性である。

 大学生になったふたりは偶然出会い、恋に落ちる。しかし、その恋愛は長くは続かない。そして、ある飲み会で事件が起きる。男性の友人も含めて、飲み会で自宅に連れ込まれ、乱暴・暴行を受ける。集団暴行事件が明らかになる中で、男性たち自身も性行為を望んでいないし、実際にしていなかったということが明確に語られる。本書では、ただ単に、東大生が、東大生以外の女子学生を見下して、嫌な思いをさせること。その1点に問題の根深さを求めている。

 全体として実際に報道された事実の嫌な感じが存分に描かれている。こうした事件が起こると、「女性にも過失があったのではないか」とバッシングされる状況にも、警鐘を鳴らしている(小説なので、具体的にそう指摘しているわけではない)。小説では事件そのものよりも、数年前からの当事者の生活、家族構成、などを丁寧に描くことで、必然的にその事件が起こったように描写している。読んでいて気分は良くない。むしろ吐き気を催すような描写がある。けれども、日本のハラスメント体質、上下関係、学歴社会に規定された男女間格差。これをものすごく見事に描いているように思える。

 

彼女は頭が悪いから

彼女は頭が悪いから