安田浩一『ヘイトスピーチ』文春新書、2015年。

安田浩一ヘイトスピーチ』文春新書、2015年。ヘイトスピーチを取材してきた筆者によるこれまでの論考のとりまとめという内容。『ネットと愛国』などで書かれてきた内容をコンパクトにしている部分と、新たに追加された部分から構成されている。これまで安田氏の本を読んできた人にすれば、「復習」の意味も強い。あとがきで水俣病患者が、福岡の中州で「水俣病患者は金食い虫だ」(大意)との中傷を受けるという話題が出てくる。公害被害にあい、運動を行い、生活保障を求めてきた被害者は、歴史を十分に知らないものには「既得権者」に見える。そして偏見に基づいてしたり顔で批判がなされる。在日コリアンをめぐる問題も、それに近いのだと思う。そもそも差別されているものが、差別されていない人と同等の権利を付与されることは、実質的な平等を進めることである。被差別者に対して、形式的な平等を求めることは、結果として差別の温床となる。社会的なマイノリティが、構造的に差別されている事実を、既得権とし、必要以上に引き下げを迫る。この構図は、新自由主義政策と補完的である。同時に、人種差別的である点で無視することはできない。憎悪表現ではなく、人種差別発言として、「表現の自由」を超えて規制をするように舵を切ること、それが求められると思う。