諸井克英(2021)『表象されるプロレスのかたち』ナカニシヤ出版

 諸井克英(2021)『表象されるプロレスのかたち』ナカニシヤ出版。図書館でざっと読んだけれど、面白かった。心理学者による本格的な研究書の体裁をとっている。ざっと読んだ限り、脚注もしっかりしている。まずは女子プロレスの試合で起こったナックルパートによる流血事件を手掛かりに、プロレスとは何かを考察している。

 そのうえで、佐山聡ミスター高橋などのある種の内部告発的な著作を手掛かりに、八百長とは何か。ギミックと何が違うのか。観客が求めるプロレスの役割とその逸脱とは何なのかを考察している。全体として、プロレス論議にありがちな八百長・非八百長というあまり建設的ではない議論を乗り越えて、プロレスの空間の意味を考察しているのが、面白い。

 プロレスで想定される予定調和的なストーリがあって、そこを逸脱する。その場合、プロレスファンは喜ぶ。ただし、ハルク・ホーガンラリアットを食らった猪木が、リングサイトで舌を出して失神したことに象徴されるように、それが行き過ぎると歓迎されない。行き過ぎは、失笑を買い、批判の対象となる。他方で、晩年のジャイアント馬場のキックには、馬場が倒れないよう、相手選手が配慮しながらぶつかっている。この場合は、それを楽しむ観客がいる。観客が期待するストーリーとそこからの逸脱、このあたりのバランスを絶妙に整理している。

 本文の写真の多くが筆者撮影となっている。このことから、筆者が実際に多くのプロレス観戦を行い、そのことを踏まえた文献研究を行っていることがうかがえる。そのことも、分析内容の説得力というか、信頼感を高めている印象がある。

 

青野慶久(2015)『チームのことだけ、考えた。』ダイヤモンド社

  青野慶久(2015)『チームのことだけ、考えた。』ダイヤモンド社同志社大学の鈴木良始教授の論文で、ボトムアップ型組織の事例としてGoogleと並び、サイボウズ社が取り上げられていた。サイボウズ社は名前は知っていたが、どのような位置づけをされているのか、詳しく知りたいと思い読んだ。

  サイボウズ立ち上げから、スタートアップ企業にありそうな長時間労働、休暇なしの働き方。組織が拡大し、従業員が拡大し、長時間労働などの働き方に共鳴できない人々も増えていく。多様な価値観をとりまとめる中心軸がないなかで考えられた「世界一のソフトウェアグループを目指す」というミッション。

 組織形態が落ち着いてからも、コンセプトや議論の仕方、成功と失敗の定義など、青野社長独自の工夫や捉え直しの事例が紹介されている。これを読むと現状をよしとせず常に改善しようとする。現状に満足せず、改革を厭わない。そんな社長であっても決断や判断に迷うことがある。この苦悩がわかる。

 

 

松下慶太(2021)『ワークスタイル・アフターコロナ』イースト・プレス

 松下慶太(2021)『ワークスタイル・アフターコロナ』イースト・プレス。コロナ禍でのテレワークの推進、出社の意義、コミュニケーションスタイルの変化などが縦横無尽に論じられている。時事問題と絡みながら、中心的な働き方の変化を論じ、新たな生活スタイルの方向性を模索している。

 筆者のスタンスは明確。コロナ問題が解決後も、リモートワークや会社以外の場所で仕事をすることの重要性は変わらない。対面重視や、出社重視の働き方に戻ることは難しい。シェアオフィスなど会社以外の場所で働けることを提供することで、アイディア交換など出社の意義も再定義される。

 大学講義も、個人が学習可能な内容と教室で対話すべき内容と、峻別すべき段階に来ている。人間同士の接触自体にインスピレーションや喜びがあることは変わらない。だからこそ、効率化を図りつつ、会うことの重要性を認識する。こうした筆者の立場に共感することが多い。タイミングのよい適切な本。

 

 

中原淳・長岡健(2009)『ダイアローグ 対話する組織』ダイヤモンド社。

 中原淳・長岡健(2009)『ダイアローグ 対話する組織』ダイヤモンド社。対話するとはどういうことなのか。雑談や議論との違いを整理しながら実践的にそのエッセンスを学ぶことができる本。どちらかの優劣を決める議論ではなく、相手の見解を聞きながら、その背景にある違いや共通点を深めるのが対話。

 雰囲気は重視しつつ真剣に傾聴する。これが対話と雑談の違い。対話プロセスで、メンバーの価値観の違いや共通点が理解され、組織としての力が強まっていくという。共通の価値観をどう作り、強靱な組織体系を作るのか。そのためには地道な対話の場所を提供する。

 本書の対話重視の考え方は、日常的な組織運営でも活用できるのではないかと、刺激を受けた。停滞気味だった日常活動や運営方法を少し変えるきっかけをもらえた。

 

 

日向野幹也(2018)『高校生からのリーダーシップ入門』ちくまプリマー新書

 日向野幹也(2018)『高校生からのリーダーシップ入門』ちくまプリマー新書。本書でのリーダーシップの定義は「何らかの成果を生み出すために、他者に影響を与えること」(20頁)。本書によれば、最近の特徴は権限によらないリーダーシップが増えていること。これは企業などの組織においても機能する。

 「権限のない人にリーダーシップを発揮してもらえるように支援し、最終的な責任は自ら引き受ける。これが権限によらないリーダーシップがきちんと機能する組織において、権限者が担うべき一つの役割」(35頁)。

 権限によらないリーダーシップの条件として、本書は1)目標設定・共有、2)率先垂範、3)相互支援をあげている。日常的な小組織でも、個々の役割に応じて貢献できる体制を作れることが望ましい。大学生も本書を通じて、ゼミ運営を考える。そうしたことに利用できるのではないかと考えた。

 

桐野夏生『日没』岩波書店、2020年。読んだ

 桐野夏生『日没』岩波書店、2020年。読んだ。最初から最後までとにかく怖い。ホラー映画ならぬ、ホラー小説ともいえるかも。読み物としては面白く、細かな描写におどおどすることもあるが、面白い。主人公の意識及び体が退化していく様子がなんともいえない不気味さを持つ。

 小説として、何が言いたいの?という突っ込みがありそうだが、社会風刺になるのかなと思う。ヘイトスピーチ規制法ができ、共謀罪が適用される時代に、過激な描写を行う小説家が、表現規制の対象となる。反省を強いるため、療養所に送り込まれる。ある意味近未来的な社会風刺がモチーフになっている。

 なんだか、他の国の出来事のようだが、日本の話。ひっそりと地方の片隅の療養所でこうした出来事が起こっている。そのことを多くの人は知らない。こうした描写がSF的ではあるが、妙なリアリティを感じさせる。恐怖の小説。

日没

日没

  • 作者:桐野 夏生
  • 発売日: 2020/09/30
  • メディア: 単行本
 

 

スリリングで飽きさせない展開:乳房のくにで

 面白かった。スリリングで飽きさせない展開。大物政治家の妻の姑いびり、そしてその存在感が抜群。二人の女性の視点が交錯するのも面白い。母性神話をするどく批判しつつ、あながち、現実とも無関係ではない。そのあたりを巧妙に描いている感じがして、良かった。テレビドラマにしても面白くなりそう。

 

乳房のくにで

乳房のくにで