羽田圭介さんの『phantom』という本

 羽田圭介さんの『phantom』という本を読んだ。工場勤務の女性は、将来の経済不安を視野に入れて、日夜副業としてのトレード業務に打ち込む。配当などで生活できるように、友人との付き合いは切り詰める。恋人もまた、同じ工場勤務であるが、実家通いなので、生活スタイルに若干の違いがある。

 主人公はお金を使わない、倹約することで将来の資金を貯める。恋人は同じ工場勤務で年収250万円前後ながらも、お金という欲望から離れ、都心部で集団生活するネット社会の覇者に憧れる。月6000円弱の会費を払えば、有名なカリスマ的存在の生活スタイルを理解することができる。これにはまっている。

 主人公は途中で恋人とのお金や生活スタイルの違いに気づく。恋人は俗世間から離れてしってしまうので、それを取り戻すべく、とても高い手数料を払って、傭兵を雇う。そしてある種のカルト教団に近いところに内部潜入する。そんなお話。

 前半から後半に話ががらっと印象が変わるが、ストンと落ちるような感覚にはならなかった。カルト教団的な内容に踏み込むのであれば、そこにフォーカスる内容もありだと思う。低所得者や金融ノルマやネットビジネスにはまる姿に重点を置くということもできたようにも。でも書き出しの雰囲気というか、「あ、読んでみたいな」と、一気に読者を小説にめり込ませる文章力。そのあたりは、筆の運び力はすごいなと思った。

 

 

NHKプロフェッショナル:校正の仕事を扱う内容

 NHKプロフェッショナル。校正の仕事を扱う内容。執筆者の立場にたって、どうすればクリアに表現できるか。受け身ではあるけれど、積極的な受け身。創造的ではないが、新たな言葉を発見したときに喜びがある。ネットの台頭と出版不況。そして、編集業務よりも校正の仕事を下に見る雰囲気。低い校正単価のなかで、間違いを直すことが当たり前にみられる。間違いが見つかったら叱られる。

 校正作業は、執筆者に違う視点を与える。ああ、私の言いたかったことはこういうことだったのだ。これでは伝わらないな。そして、よく読んでくれてありがとう。校正作業と執筆作業は共同作業に近い。

 自分が他人の原稿を校正するときは、そうありたいと思うが、そのようにはできない。有名な賞を取った作家さんと、何かの授賞式みたいなところで、「はじめまして」『あのとき校正ではお世話になりました』みたいなシーンがあった。校正者と筆者が会うことは、ほとんどなさそうだけれど、執筆者には刻まれている。印象的なシーンだった。それにしても、この方の作業、仕事内容は、本当にすごい。圧巻。

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護られなかった者たちへ:映画をみた

 護られなかった者たちへ。映画をみた。震災と貧困問題という軸は変わらないが、原作と描写が違う部分がいくつかあった。貧困問題にかかわるリベラル派の国会議員は、原作では海外に買春ツアーに出かける県議。被疑者が捕まるのは駐車場ではなく、空港など。そのあたりは微妙な違いだが、具体的に映像で見ると原作とは違った印象をうけた。

 刑事、被疑者、ケースワーカーの存在感が、原作よりも際立っていた。俳優さんにチカラがあるからだろうか。公務に従事する人をことさら悪人として描かないという配慮が映画にはあったのかもしれない。それでもよい作品の部類になるのではないかと、思う。

シン・仮面ライダーの撮影ドキュメント

 シン・仮面ライダーの撮影ドキュメントを見た。監督が考える戦いのリアリティと、スタント関係者、俳優の考える戦いのリアリティにずれがあって、しかも現場で監督の判断が徐々に変わっていく。現場の混乱と負担の様子が見られて、素人ながらにも大変そうにみえる。

 庵野監督の撮影スタイルのことはほとんど知らない。でも、映像を見る限り、事前に決められたことではなく、その場で起こるハプニング的なことを追求しているようだ。いわば当たり前になっていることをその場で破壊する。粗削りであっても、その瞬間に起こる爆発力に期待する。

 俳優の池松壮亮さんは、事前に想定したことが常に覆されることで生ずる「現場の雰囲気の悪さ」を指摘していた。その中でも自分でできることと、監督が期待することをすり合わせながら、努力を続ける姿勢は見事だなと思った。作品を作りこむとはこういうことなのかなと思ったけれど、与えられたことを淡々とやるスタイルが、映画を撮ることの標準とするならば、この撮影スタイルは大変だ。映画現場におけるハラスメント的なことと表裏一体ではある。

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学生がはつらつとしながら、自由に雑談する姿

学生がはつらつとしながら、自由に雑談する姿はいいものだ。講義も中盤になっていくと、だんだんどんよりした雰囲気になることも多いのだけれど、久しぶりに会って楽しそうに話する空間はよい。この雰囲気を(ジグザグしながらも)持続的に作ることができれば、いいな。