柳澤健『2000年の桜庭和志』文藝春秋社(文春文庫)、2023年

 刺激的に読んだ。高田延彦をトップとするUWFインターナショナルが団体として陰りを迎える2000年前後の、桜庭和志の足取りを描いている。中央大学レスリング部出身の桜庭は寝技を得意とする地味なレスラー。Uインターは、パンクラスやリングスなどUWFから派生したそれ以外の団体に観客をとられ苦戦していた。新日本プロレスとの団体対抗戦にシフトし、高田延彦武藤敬司に4の地固めで敗れ、興行的にも新日本プロセスに飲み込まれていく。

 海外ではアルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ(UFC)という総合格闘技がブームを迎えていた。大会で優勝したのはグレイシー柔術を操るホイス・グレイシー。強烈なインパクトを残したホイスは、「自分の兄は10倍強い」として、400戦無敗というヒクソン・グレイシーが注目される。新しい柔術ファイターが出てくるなかで、行き詰まるUインターグレイシー柔術と戦うことで、団体の存続を模索した。安生洋二が米国のグレイシー道場やぶりを試みるも何もできず負ける。プロレス最強神話が崩壊する中で、地道に寝技を磨く桜庭は、総合格闘技で力を発揮していく。

 本書では総合格闘技イベントPRIDEに途中から猪木が参戦することで、異種格闘技戦のお墨付きが得られ、プロレスファンが応援するようになったことが語られている。桜庭和志は自分がそう明言するかどうかは別として、猪木の「プロレスは最強である」との考えを引き継いだといえる。

 個人的な経験を振り返れば、90年代後半の衰退するUインターの印象は強く残る。新日本VS Uインターの爆発的な人気も、Uインターが新日本に事実上、飲み込まれたことを示唆する。他方で、2000年代以降、世界的なヒーローになっていく桜庭の活躍はあまり記憶にない。もちろん、桜庭が活躍していた事実はしっているが、世界的なレジェンドとなっていることまでは理解していなかった。その後、桜庭が新日本プロレス中邑真輔とプロレスをしたことも知らなかった。桜庭の格闘技路線は、いまの新日本プロレスの再生とどうかかわっているのであろうか。本書を読んで、そのことを知りたくなった。

 本書では、高田延彦が、グレイシーとの試合にむけてほとんど準備しない、桜庭を引き抜いて、その後関係を悪化させる、リアルファイトをしない、などネガティブに描かれている部分が多い。プロレスにヒール役は必要だとはいえ、全盛期の高田の戦いぶりを支持していた人間としては、やや残念である。それだけ影響力が大きかったということか。