金子雅臣『壊れる男たち』岩波新書、2006年

 金子雅臣『壊れる男たち』岩波新書、2006年。女性相談室に訪れたセクシャルハラスメントの案件を具体的に紹介し、被害者と加害者の事実認識の見事なまでの隔たりを指摘する。複数の事例で加害者の男性が、職場における優越的な立場をわきまえず、対等な恋愛関係と理解している。このことを、本書では、男性優位の現実をみず、勝手気ままに解釈する、自己中心的幻想である、と指摘する。

 本書によれば、都合のよい解釈、他者への理解の欠如、これがセクシャルハラスメントを生む根本原因である。男性は下駄をはかせてもらっている。そういった認識が希薄である。家庭での夫婦生活における性生活と、外での性願望が分離している。男性が男性優位社会に無自覚であればこそ、ハラスメントは生ずる。このような主張を展開している。

 結論的な主張に至る前の、豊富な事例が読みどころ。具体的事例は、どのような対称性が生まれているのか理解するうえで、必須である。本書は2018年に5刷。しばらく買うことができなかった。筆者は男性。それだけに、加害者になる男性と、そうはならない男性に注意を向けている。

 

壊れる男たち―セクハラはなぜ繰り返されるのか (岩波新書)

壊れる男たち―セクハラはなぜ繰り返されるのか (岩波新書)

 

 

プラド夏樹『フランス人の性』光文社新書、2018年

 プラド夏樹『フランス人の性』光文社新書、2018年。フランス在住のジャーナリストがフランスの性教育カップルや性的関係などについて、実体験をもとに文章化したもの。フランスのカップル概念には、結婚という制度に挟まれた「繁殖のための同居」を否定するフランス的な価値観がある。子供ができて、パパ、ママになっても二人だけの時間はつくる。恋愛関係の緊張関係がなければ、別れることも厭わない。

 男性優位の社会であることは、フランスも日本と同じである。とはいえ、本書によれば、男性が女性を誘うことはフランスで積極的に推奨される。それは、米国発の「MeToo」運動に、一定の反発があったことからも示されている。男女間を中心とする性的関係は相手を思いやること、同意のない性的関係は認められないこと。これらを前提とする。しかしながら、あとは、当事者で解決すべき、というのがフランス的な価値観だという。

 本書で紹介されるフランス的価値観がどれだけ普遍的なものなのかは分からない。筆者自身も経験したオープンすぎるフランスの性教育も、驚きの連続だ。ただし、日本的なクローズドな価値観を、相対化するのには、有意義な本だと思う。

 

フランス人の性 なぜ「#MeToo」への反対が起きたのか (光文社新書)

フランス人の性 なぜ「#MeToo」への反対が起きたのか (光文社新書)

 

 

日系企業の中国工場

 日系企業の中国工場では、農村部の出稼ぎ労働者が基幹労働力。どの企業でも、労働者の定着率の低さに頭を悩ませている。改善、チームワーク、ピアプレッシャー。日本的な職場編成は20年たっても浸透しづらい。これは、はたして中国人の気質という一般的理解で説明可能なのか。

 農村部と都市部の戸籍格差に規定され、沿岸部に出稼ぎにやってくる。職場の労働組合が地域共産党の下部組織として、上から組織化される。交渉主体としての実態も少ないようだ。不安定雇用で、交渉難しいとすれば、職場に必要以上に幻想は求めない。ジョブホッピング的なことも当然となるのではないか。

 

暴力問題

 客観的にみて、宮川選手が暴力を受けていることと、宮川選手が競技を継続するために、適切なコーチを探すこととは、分けて考えたほうがいいと思う。前者は明らかな暴力行為で、そのことと協会幹部の対応とがこんがらがっている。協会幹部のパワハラがあれば、それはしかるべき手順で改善すべき。その話と、コーチによる暴力問題は別問題。かりに当事者がコーチを必要とするからといって、暴力は肯定できない。

 

2泊3日のゼミ合宿をおえて

 2泊3日のゼミ合宿を終え、再来週から中国。この間、学会の論文アップロード作業という重責を間に挟む。テキスト執筆の依頼があって、それ以外にもテキストの修正作業を求められ、予定がかなり狂っている。そうこうするうちに、後期の講義が始まる。なんというかすでにあわただしい。

夏休み登校日

 小学校の夏休み登校日。しおりをみて持ち物をしっかり把握し、自宅を出る。歩いている途中で、「もしかして上履きが必要では?」と娘が言う。たしかに、登校日なので上履きが必要かもしれない。急いで、自宅に戻るも見つからず。とりあえず、そのまま投稿することに。案の定、上履きは必要。外靴を拭いて教室内で生活することに。こちらがきちんとチェックしていないが問題とはいえ、持ち物リストに「上履き」と書いてほしい!

NHKスペシャル「ノモンハン 責任なき戦い」2018年8月15日放送

 NHKスペシャルノモンハン事件ソ連と中国【満州】の国境間際で行われた地上戦。日本側はソ連の軍備状況を見誤り、無謀な境界戦に挑む。西側はドイツ、東側は日本にはさまれたソ連スターリン側は、容易に東側に注意をさくことはできないだろう。曖昧な境界線では先制攻撃をしよう。このような考え方で関東軍は戦闘を挑む。ソ連側はひそかにドイツとの友好関係を築いている。そのため、日本の知らない間に、東の国境間際に兵士や軍隊を徐々におくる準備を進める。日本側は、関東軍のある少尉の発案で、積極的に攻める決意をする。境界線を攻める場合には、天皇の了承を得てから進めるという方針も無視して、突き進む。見通しのまったく甘かった戦いで、日本軍は当然苦戦する。草原のくぼみに防空壕のようなものをつくり、食事や兵器を隠す。その後がいまでも残っている。日本側は壊滅状態に陥り、軍隊の一部は途中で撤退を決断する。決断した隊のリーダーは、その後、「自決」を迫られる。境界間際の戦いを主導した関東軍の中心人物は責任を取らない。こうした状況をモンゴルへの現地取材、当時闘った関係者やその親族への取材、新たにみつかった陸軍への取材テープなどをもとに検証していく。

 モンゴル付近で戦闘に加わった方が取材に答えている。自決を迫られた隊長の親族が手紙のやり取りを保存している。関東軍で境界線での戦争を主導したといわれる人物の親族が登場している。戦闘行為というざっくりしたくくりの中にも、兵士とその家族がいる。なぜ父が死んだのか、その理由もわからない家族が多数いる。問題の構造を隠蔽し、責任を明らかにしない。当時の軍隊組織の問題点を、リアルに迫っている。その全てがNHKだからこそ成し遂げた内容ともいえる。兵士個人の視点から戦争に焦点を当てていることもすばらしい。良心的な番組。

NHKスペシャルノモンハン 責任なき戦い」2018年8月15日放送
http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20180815