とびとびでスケジュールが組み込まれる

 冬休み〜春休み。授業はないが行事続きである。2〜3月は学期シーズンと違って、もろもろの校務が不定期にやってくる。不定期であることがポイント。とびとびでスケジュールが組み込まれるので、毎日の生活リズムがつかみにくい。授業日が固定されているほうが、リズムがつかみやすい。3月下旬になって校務が終わりを迎え、ようやくリズムがみえてくる。でも、そのときには新年度開始まじかである。なんとか踏みとどまるぞ。

北川慧一ほか『非正規クライシス』朝日新聞出版社、2017年。

 北川慧一ほか『非正規クライシス』朝日新聞出版社、2017年。朝日新聞の連載記事をまとめた本。非正規労働者の高齢化(不本意非正規労働者の問題)、官製ワーキングプア同一労働同一賃金最低賃金などのトピックを扱っている。各章とも、取材に基づくルポータージュ、関連する統計の紹介、当該分野に関わる識者のコメント(社会政策、労働経済学、労働法)などの内容を軸にまとめている。全体として構成がすっきりしている。扱うテーマも身近なもので、学生の入門書として利用できそう。個人的には同一労働同一賃金最低賃金の章に関心を持った。

非正規クライシス

非正規クライシス

横田増生『ユニクロ潜入一年』文藝春秋社、2017年。

 横田増生ユニクロ潜入一年』文藝春秋社、2017年。筆者は物流関係のジャーナリスト。ユニクロに批判的な書籍を出版し、ユニクロから訴えられた経験をもつ。訴訟自体は、事実関係に相当程度の根拠が認められるとして、ユニクロ側主張は退けられる。つまり、スラップ訴訟としての性格が濃厚だった。その筆者が、幕張や新宿などのユニクロ店舗で実際にアルバイトとして働き、その内容をまとめた。
 途中で中国やカンボジアの縫製工場の取材内容も紹介されるが、あくまでメインはユニクロ店舗の潜入取材。前著以降、ユニクロから出入り禁止を宣告されている筆者は、妻の苗字に変更するという技で合法的に潜入する。その意気込みはすごい。
 潜入取材といえば、古くは自動車絶望工場がある。最近では趣旨は異なるもののNHKのボス潜入などがある。本書ではそれら現場潜入ルポの強みが遺憾なくはっきされている。「柳井社長こそ現場で働いたほうがいい(現場を知れ!)」という強力なメッセージ。研究書とは異なるタイプの本だが、その分よみごたえがある。

ユニクロ潜入一年

ユニクロ潜入一年

NHKEテレ欲望の経済史:戦後日本経済編

 欲望の経済史、戦後日本経済編。2回ほどみた。戦後、日本経済の発展の象徴的地域として筑豊地域がたびたび紹介される。1960年代の所得倍増政策の下で、雇用の流動化が政策目標として掲げられ、炭鉱地域の閉山と首都圏への移動が行われる。農村部の仕事も減り、一家離散のような状況も生まれたという。
 この番組は野口悠紀雄氏が解説をつとめている。氏独自の「1940年代体制」の説明がたびたび出てくるが、バブル経済との対比で、「働くことで報酬が得られる、働かないと報酬がえられない」と述べている点は注目される。金融所得で莫大な資産価値を有する人と、働いても生活困難であるワーキングプアの時代を到来を示唆しているようだ。
 いわゆる集団就職については、地方中核都市でも、周辺地域から集団就職を受け入れている。たとえば、中国地域の縫製産業では、鹿児島等から女性労働者を大量に受け入れている。集団就職というと東京への移動のみがクローズアップされるが、それ以外の地域における集団就職受け入れの論理については解明が進んでいないように思える。集団就職に関する2つの専門書を読んだ後だったので、番組を見てそのことを考えた。

集団就職の時代―高度成長のにない手たち (AOKI LIBRARY―日本の歴史)

集団就職の時代―高度成長のにない手たち (AOKI LIBRARY―日本の歴史)

映画『ジャコメッティ』2017年。

 映画『ジャコメッティ』2017年。フランスの画家ジャコメッティが米国からモデルをよぶ。モデルとなる男性作家は著名画家に声をかけられ、喜びフランスへ。最初は1日の約束が、スランプでかけない。帰国日程は次々と延期される。ジャコメッティは、ボサボサの髪形、気まぐれな態度で、チクショーと言って投げ出す、近所の娼婦を呼び込み、気分転換にバーで飲酒。明らかにまともな雰囲気ではない。ただし、いかにも芸術家ののりが、よく出ていて、とてもよい。モデルとなる男性は整った顔、ビシッとしたネクタイにスーツ。その対比がビジュアル的に面白い。
 「肖像画には完成はない。終わりはない」とのニュアンスの発言が出てくる。それは論文にも通ずる。きっとむかしの研究者もこんなところあったんだろな、いまは時間に終われてそれどころではないな。そんなことを考えながら鑑賞した。全体として物語はたんたんと続く。大きな落ちがあるわけではない。登場人物は限られているが、その分当事者に関心が持てた。見ごたえのある作品だった。

藤本隆宏『現場から見上げる企業戦略論』角川新書、2017年。

 藤本隆宏『現場から見上げる企業戦略論』角川新書、2017年。モジュール型産業台頭で日本企業は競争力を失っている。ただし、日本産業の生き残る道はある。それは、プラットフォーム企業に対する強力な補完材を提供することである。たとえば、村田製作所はセラミックコンデンサーを、世界中ほとんどのスマートフォンに導入している。Googleやアマゾンなとプラットフォーム企業になることは難しい。そうした企業群を目指すのではなく、日本のものづくりの流れをいかした戦略をとるべきである。これが本書の基本主張だと読んだ。

 日本企業は、米国型のプラットフォーム経営戦略と東アジア諸国の低価格戦略とのその板ばさみにあっている。それに対して、付加価値の流れを活かすとの議論は、新古典派経済学にみられる最適配分論とは異なっている。その点は筆者が長年にわたって主張してきたことで、産業論として参考になる。

 ただし、たとえば日本企業の現場でこれまでも過剰労働が制度として組み込まれてきたこと、過労死・過労自殺等の問題も存在してきたこと、この点をどう評価するのか。その点への目配りは非常に弱く感じた。社会政策学会など伝統的な雇用問題の研究成果とものづくり論や産業論の関連性を整理する。そうした研究が必要だと感じた。

映画『人生タクシー』2017年

 映画『人生タクシー』。新聞で紹介されていた記憶があって、借りた。タクシー運転手に扮する映画監督が、防犯装置と称するカメラで流すドキュメント。舞台はイランとのことだが、会話の様子から運転手は、それなりに知られた映画監督であることをしる。交通事故にあった夫婦を運んだり、金魚を正午までに泉に届ける不思議な中年女性をのせたり、事情はさまざま。イランの国政事情は詳しくは分からないが、かなり情報統制が強いであろうことがわかる。タクシー運転手を通じて庶民の生活実態を描いているとすれば、アクロバティックなドキュメント映画といえる。真相はわからないが、イラン版のマイケル・ムーアとの印象をもった。

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