藤本隆宏『現場から見上げる企業戦略論』角川新書、2017年。

 藤本隆宏『現場から見上げる企業戦略論』角川新書、2017年。モジュール型産業台頭で日本企業は競争力を失っている。ただし、日本産業の生き残る道はある。それは、プラットフォーム企業に対する強力な補完材を提供することである。たとえば、村田製作所はセラミックコンデンサーを、世界中ほとんどのスマートフォンに導入している。Googleやアマゾンなとプラットフォーム企業になることは難しい。そうした企業群を目指すのではなく、日本のものづくりの流れをいかした戦略をとるべきである。これが本書の基本主張だと読んだ。

 日本企業は、米国型のプラットフォーム経営戦略と東アジア諸国の低価格戦略とのその板ばさみにあっている。それに対して、付加価値の流れを活かすとの議論は、新古典派経済学にみられる最適配分論とは異なっている。その点は筆者が長年にわたって主張してきたことで、産業論として参考になる。

 ただし、たとえば日本企業の現場でこれまでも過剰労働が制度として組み込まれてきたこと、過労死・過労自殺等の問題も存在してきたこと、この点をどう評価するのか。その点への目配りは非常に弱く感じた。社会政策学会など伝統的な雇用問題の研究成果とものづくり論や産業論の関連性を整理する。そうした研究が必要だと感じた。