読書:『現場主義の競争戦略: 次代への日本産業論』

 とある研究者の方のフェイスブックを見て本書を手に取った。彼の長年の議論は、モジューラー型(組み合わせ型)とインテグラル型(擦り合わせ型)のうち、日本企業は後者に競争優位があるというもの。多能工型のチームラインには擦り合わせ型が適合的であるという。

 この著作の中では新古典派経済学において労働過程分析(この言葉自体も批判経営学や政治経済学で用いられてきた概念ではあるが)がブラックボックス化していることを批判している。意外といえば意外であるが、実証主義的に現場を歩いてきた経営学者からすると、制度派経済学の方が枠組みとしてすっきり来るという(進化経済学会の会員であることも明記してあった)。

 小池和男氏もそうだが、ある種の伝統的日本的経営のものづくりとしての強みを強調する論者と、市場主義的な考え方、とはあまり相性が良くない。こと、藤本氏の議論に限って言えば、スミスやマルクスなどの広義の古典派経済学は、労働が価値を生むという点で、ものづくり基盤を強化する経営学者の議論と親和的なんだろう。 何か、この辺の思想地図を整理することは意義がありそうな作業である。

 日本の擦り合わせ技能の強化にむけて、競争力を磨き、国内工場にも展望を見いだせるという指摘にはうなずける点が多い。しかし、従来の日本的経営で問題点とされてきた、労働者に過度に労働を強いる点や、生産性向上と称して、生理学的な意味での休息をも「ムダ」とするリーン生産方式の問題点についての視点は希薄である。日本的経営の強みを再構築しつつ、こうした問題点を回避するためには、内部労働市場的でも、市場主義的(新自由主義的)でもない第3の道が必要なのだろうか。