下請・中小企業に関するレビュー:三井逸友(1985)「中堅企業、ベンチャー・ビジネス」

三井逸友(1985)「中堅企業、ベンチャー・ビジネス」瀧澤菊太郎編『日本の中小企業研究 第1巻』有斐閣

日本の中小企業研究 (第1巻)

日本の中小企業研究 (第1巻)

 本稿では中堅企業論、ベンチャー・ビジネス論の登場の背景と特徴、その後の展開としての地域主義論とその思想的背景が論じられる。中堅企業論が意識するのは問題性を持たない中小企業群であり、適正化政策や弱者保護的な中小企業政策の転換を求める。同時に、独占の弊害を除去するものとして一部の中小企業を描き、大企業体制の終わりを主張する。その嚆矢となったのが中村秀一郎の1964年の著作(『中堅企業論』東洋経済新報社)であり、大企業なみの賃金水準の支払い能力を持つ中堅・中企業の多数の発展をみたとする。これらの議論は近代経済学の限界生産力説や人的資本論の観点から支持され、のちに地域を主体とする中小企業の存在に着目する観点から、清成忠男らの「地域主義」の把握と合流する。他方、1970年代以降、1980年代に入ると日本経済の好パフォーマンス、日本的経営への注目、新自由主義イノベーション活用論とともに、大きな支持を得ていく。
 本稿は、中堅企業論に関する丹念なリビューであり、中小企業論の視点が貢献型に移っていくことを中堅企業論の検討を通じて明らかにしている。同時に重要な点は、1980年代以降、渡辺幸男が指摘したように、問題性認識の研究者の中でも、下請企業の技術水準が社会的分業の観点からみて、効率性を持っていることが共有される。他方、対象領域も「効率性」のある産業、すなわち日本的経営を支えた自動車や電気機械などの基幹産業に絞られることになり、斜陽産業である労働集約型産業、なかでも繊維産業の中小企業分析は少なくなっていく。もちろん地場研究は存在するが、現在のような注目は集めていなかった。