中小企業とネットワークに関する先行研究2

学内の研究会でネットワークがテーマの報告があり、その中身が議論になった。気になったので中小企業研究分野でネットワークがいかに議論されているのか、メモ。額田春華氏の論考がレビューとして参考になるだろう。

額田春華(2003)「中小企業とネットワーク」中小企業総合研究機構編『日本の中小企業研究1990−1999 第1巻』同友館。

日本の中小企業研究〈第1巻〉成果と課題1990‐1999 (中総研叢書)

日本の中小企業研究〈第1巻〉成果と課題1990‐1999 (中総研叢書)

以下は私が読んだ上での論文の概要と感想(コメント)。

 本稿は、ネットワーク概念が提示された背景、その成果と課題を提示し、4点の結論を提示している。ネットワーク概念は今井(1986)の定義を用いて、「ある関係の下に、ある程度まで連結されているような諸単位の統一体」とし、意思決定や行為の束縛の小さい、脱中心的で、組み換えが自由にできる自発的連結と指摘する。同時に、中小企業論の「効率性」論、「問題性」論の対立状況にかんがみ、高橋(1992)の議論を整理する中で、サプライヤーネットワークの「問題性」を所与にせずに考察する必要性が提示される。他方、日本におけるネットワーク概念は、「人々の理想像」として語られることが多く、その「危険性」を安田(1997)の整理を用いて、制約であり、拘束である点に求める。すなわち、現時点で形成されたネットワークそのものに加えて、共通経験が積み重ねられるプロセス、ネットワーキング分析の重要性を指摘する。またネットワークには自律性/排他性、多様性/共通性、競争性/協調性の間でジレンマが発生することに注意を促す。そして、ネットワークの今後の方向性として、「群として」存在していくしくみとの関連づけの必要性を提示し、渡辺(1997)の「山脈型社会的分業構造」の概念図を用いながら、集積内部に需要を持ち込む「需要搬入企業」と需要搬入企業が持ち込むニーズを実現する支援機構としての、多様な専門能力を持つ大量な中小企業群である「分業集積群」」のダイナミズムを分析する必要性を提示する。
 本稿は中小企業論の枠組みから離れて、ネットワークそのものが持つメリットとデメリットを提示し、ネットワークが形成されるプロセスそのものの分析や中小企業間、大企業−中小企業間の「権力」を「中立性」を用いて考察することの必要性を説いており、新たな動向としての中小企業間ネットワークの分析視覚の可能性を感じさせる。しかし、「問題性」そのものをアプリオリにしないという指摘に明らかなように、経済体制や社会構造体制、突きつめて言えば資本主義の下での中小企業の存在理由の根本的な理由づけの膨大な先行研究についての議論が存在せず、ある意味での従来の中小企業研究との「断絶」を感じる。