藤倉哲郎『ベトナムにおける労働組合運動と労使関係の現状』東海大学出版部、2017年

 藤倉哲郎『ベトナムにおける労働組合運動と労使関係の現状』東海大学出版部、2017年。必要があって読みましたが、すごい本でした。本書によれば、ベトナムでは、国家セクター中心とする既存労働組合の組織対象領域と、多国籍企業を中心とする労働集約型の未組織領域がある。ドイモイ以降のベトナム労使関係の特徴を、本書では、二重構造として把握する。

 ストライキが頻繁する日系多国籍企業では、農村部出身の労働者の生活不満が潜んでいる。しかし、労働者の多くは、都市部での生活ではなく、農村部からの日帰り就労を選択している。筆者が「在郷型就労」と呼ぶそうした農村部の生活スタイルは、職場での本来不安定な労使関係を、安定付けている。本書ではこのように分析する。

 外国人である筆者が、社会主義国であるベトナムで取材をして、このような著作を書き上げる。語学面でのハンディキャップはもちろん、現地での人間関係の構築など、並大抵の苦労でできる作業ではない。統計データが2011年でやや古い点が惜しまれるが、それでも優れた知見を出している本格的研究書である。素晴らしい。

ベトナムにおける労働組合運動と労使関係の現状

ベトナムにおける労働組合運動と労使関係の現状