労働過程論とペイエクイティ

 労務理論学会誌の櫻井幸男氏の論文を読んだ。この論文の主要なテーマは、ペイエクイティ(同一価値労働同一賃金)はそれ自体賃金水準を決めないとの批判にある。ただし、より興味を引いたのは技能・熟練と付加価値の関係である。熟練は付加価値形成をより大きくするが、剰余価値形成を不確実にさせる。もっと言えば、労働者の技能を高めることは、剰余価値生産にとっての不確定性を伴う。
 高付加価値生産を志向する中小企業の産地の足元では、外国人労働者を雇用している。製品価格帯は高いが、一部低賃金の外国人労働者を活用している。本来、付加価値を高めることは、技能水準の高い労働者の存在とセットである。技能の高まりと、職務、賃金が対応していれば、付加価値分配における労働側の取り分も増える。それに対し、現代日本の産地では、外国人技能実習生を一部活用することで、中小企業がなんとか存立している。この関係をどう捉えたらいいのか。
 この問題は、中小企業における下請工賃の低さが経営を圧迫し、社会保険料負担等もあわせて、事業継続が困難であることが問題の核心である。この部分を改善しなければ、中小企業問題の前進には至らない。それを踏まえたうえで、中小企業経営という枠組みの中でみると、労使の付加価値分配はゆがんでいる。中小企業における労使関係上の問題として現象している。
 中小企業であっても労使関係は存在するのだから、本質的にみて資本と労働で職務価値をどのように決めるのか、その対立はある。しかし、大企業との取引関係をも加味すれば、中小企業では労使で共同できる余地もあるのではないだろうか。低賃金で人権侵害の疑いある労働が存在し、それを是正する必要性も、中小企業内部の労使関係の是正と同時に、中小企業経営安定に向けた協同のうちに可能性が潜んでいるのではないか。
 中小企業における職務評価の実践を「経営側の視点からの職務評価」と理解する方法がある。ただし、中小企業では大企業と異なり、経営者と労働者の利害が一致する余地が大きい。その点を考えれば、ペイエクイティの実践も労使関係の視点に加えて、企業規模の視点ももたなければならないのではないだろうか。