大沢真理編『承認と包摂へ』岩波書店
承認と包摂へ――労働と生活の保障 (ジェンダー社会科学の可能性 第2巻)
- 作者: 大沢真理
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2011/08/26
- メディア: 単行本
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筆者によれば、日本の場合、性と年齢による差別賃金をもたらすのは「男性稼ぎ主」規範に立つ年功賃金制度にある。企業の賃金原資(パイ)は「男性稼ぎ主」規範に基づき、当初から男性には多く、女性には少なく配分された。こうした「男性稼ぎ主」賃金が継続したのは、1)労働者の公平感(石田光男)、2)企業と賃金へ依存した日本型生活保障(大沢真理)に起因する。最近の職務評価手法として、ホームヘルパー、スーパーマーケットなどの事例が紹介・検討されている。職務評価は看護師が878.6。これを100とすると、ホームヘルパーの価値は83.9、診療放射線技師84.6とほぼ同じである。しかし、時給は大きな格差がある。看護師1913円を100とすると、ホームヘルパー1237円=64.7。仕事の相対的な価値より20ポイントも低い。スーパーマーケットの場合、正規労働者755.5点で100とすると、役付パート92.5、一般パート77.6になる。それに対し、賃金は役付パートが正規労働者の約70%(1301円)、一般パートは同じく約55%(1016円)。職務の価値が100:92.5:77.6であるのに、賃金は100:70.2:54.8となっている。
スーパーマーケットの事例のように、同一工程内で雇用形態別の職務価値を算出し、実際の賃金格差とギャップがあるとの指摘は非常に面白い。学術的に価値がある。ただ、異なる産業で比較をする場合、職務価値のポイント基準が同じでないと意味がないだろう。例えば、自動車産業と繊維産業では状況がかなり違うように思える。その点、特定の組織内での格差是正には有効だが、部門間となるとかなりハードルが上がる印象である。また、日本の賃金形態について、年功賃金が性差別的だとする筆者の把握に関わって、「賃金形態が差別を生む」という認識は以前から気になっている。賃金差別をしたのは経営側であって、「賃金形態そのもの」から自動的に格差や差別が生まれるわけではない。一般的にはそういえるのではないだろうか。