読書『ルポ 賃金差別』

東京出張の飛行機内で、竹信三恵子『ルポ 賃金差別』ちくま新書を読了。本書では1.主婦パート、2.能力主義、3.派遣という3つの雇用形態を追うことで、労働者の間に「壁」がつくられたことを指摘している。「主婦は家計補助だから低賃金でもしょうがない」から始まって、「彼は能力が低いから賃金が下げられている」で発展して、「会社は違うので賃金のことは知らない」、「それは派遣会社の問題」で完成する。つまり、派遣労働は賃金差別の「完成形態」というのが著者の立場である。
朝日新聞の記者を長年務めてこられただけに本書で取り上げられる事例は本当に豊富である。しかし、理論分析というかどういう方向性を目指すべきか、対案や枠組み整理はあまりない。もちろん、同一価値労働同一賃金も指摘しているが、事例検討が中心である。とはいえ、年功賃金は勤続年齢について客観的、正社員の賃下げは均等待遇ではないとの重要な指摘をしている。この点は、均等待遇を考えるうえで重要な論点である。
 職務評価の4大評価のうち、「知識・技能」と「責任」は企業側が必要とする要素、「負担」「労働環境」は労働者側にとって重要な要素である。日本経団連の同一価値労働同一賃金は、企業側の論理のみ(210頁)という整理を行っているが、これはわかりやすい。要は職務評価、それ自体がバラ色のものではなく、その利用の仕方、そのプロセスに労働側の見解がどれだけ反映されるかが「均等待遇」の中身を左右するとの議論。誰か(経営側の視点ではない)職務評価入門のような本を書いてくれないかな。

ルポ 賃金差別 (ちくま新書)

ルポ 賃金差別 (ちくま新書)