大学教員の労働条件:『大学教員 採用・人事のカラクリ』

大学教員 採用・人事のカラクリ (中公新書ラクレ)

大学教員 採用・人事のカラクリ (中公新書ラクレ)

読了。大学教員の人事採用をタイトルとする本だが、その実態は文系研究者の就労・労働条件の実態とその変化の本である。

いくつか読んでいて気になった点。第1は、非常勤講師と常勤教員の待遇の格差についてである。著者は常勤教員は各種会議や雑務があるのに対し、非常勤講師はそれがまったくないことを根拠に同一労働同一賃金という点からみて、格差は相当であると述べている。たしかに非常勤講師は授業負担のみで単純に授業のコマ数で給与が決まる。ただし問題は非常勤講師も労働者であるにもかかわらず、一般的な福利厚生が著しく劣っている点である。非常勤講師に対する研究室の貸与は普通ないし、授業準備にかかる印刷代金も自宅作業の場合持ち出しである。常勤教員に求められる会議がない分、仕事の負荷は若干異なるとはいえ、賃金の単価はもちろんそれ以外の福利厚生が不公正なものが多い。非常勤講師の待遇引上げを行うべきだというのが自分の考えである。

第2の点は、常勤教員と非常勤講師の間に、任期制の中間形態の大学教員が大量に生まれている点である。特任○○や常勤教員(任期制)といった教員が増えている。これらの現象を本書では全くといっていいほど扱っておらず、常勤教員と非常勤講師という2項対立的で描いている。これは現状と合致していない。

とはいえ、個々の事例を見ると社会人が大学教員になるにあたっての心構えや、博士の学位、英語での論文発表が必須になっている点など学ぶ点は多い。学閥やコネ人事がある程度機能していることも、大学という世界の特有の現象を表している。大学関係者必読の文献である。