小川進『QRコードの奇跡』日本経済新聞社、2020年

 最近読んだ小川進『QRコードの奇跡』日本経済新聞社、2020年では、1)オープンソース化、2)利用者の業務知識の組み合わせ、その2点が当該製品の成功要因であると分析されている。1980年代のトヨタカンバン方式の電子化のために開発されたのがQRコード。当初は企業間取引の効率化のための手法であったが、国際標準化の流れとともに、2000年代以降消費者ニーズにこたえる形で拡大した。これらの現象を踏まえて、日経書評では、「ユーザーイノベーション」と評価されている。

 

映画のグリーンブック

 映画のグリーンブック、レンタルで見た。ナイトバーを首になった白人が、生活費稼ぐために運転手を引き受ける。ボスは全米をツアーで回る黒人歌手。人種差別とか偏見とかもありながらも、2人が徐々に打ち解けていく感じが面白い。会話がユニークというか、やり取りに引き付けられる。

 移動中のアメリカの風景が美しい。また有名歌手であるにもかかわらず、訪問先の各地で黒人差別を受ける主人公の姿も印象に残る。個人的にはケンタッキー州に入った後、車内でチキンをほうばる2人のやり取りが好き。

 

グリーンブック [DVD]

グリーンブック [DVD]

  • 発売日: 2019/10/02
  • メディア: DVD
 

 

 

巽真理子『イクメンじゃない「父親の子育て」』晃洋書房、2018年

 巽真理子『イクメンじゃない「父親の子育て」』晃洋書房、2018年。父親のジェンダー規範の変化を検討している。2000年代後半以降の男性は、「一家の稼ぎ主」という男らしさと、「ケアとしての子育て」の実践の間で揺らいでいる。本書では、1)厚生労働省イクメンプロジェクト、2)育児雑誌、3)父親9名へのインタビューを通じて、丁寧な分析で読み解いている。

 人々はみな、職場、家庭、地域の中でそれぞれの固有の役割があり、境界線を行き来している。職場での承認、家庭での承認、地域での承認が何らかの形で得られれば、実体としての「ケアとしての子育て」に従事できる可能性が高い。これが本書のメッセージであるように思われる。

 どのように子育てにかかわるのか、という点は、当事者として実践的な問題であると同時に、研究者として見た場合、このような問題をどのような切り口で攻めるのかの問題でもある。当該分野の先行研究に必ずしも明るくないが、読み物として面白く、かつ学術的な刺激も受けた。

安藤俊介『怒りが消える 心のトレーニング』 ディスカヴァー・トゥエンティワン、2018年

 安藤俊介『怒りが消える 心のトレーニング』 ディスカヴァー・トゥエンティワン、2018年。アンガーマネジメントの本。怒りを感じること自体は問題とはとらえていない。他者に対して怒りの源泉をどのように伝えるのか、また怒りをそのままぶつけてしまっては、健全な人間関係が構築されないなど含蓄に富む指摘が多い。

 怒りを感じた時に、その事実、場所、対応策などを事細かに記録するアンガーログの教えが、参考になった。コロナ拡大以降、自宅にいることも多く、子供との言い争いも多くなっている。とても勉強になった。

[図解] アンガーマネジメント超入門 怒りが消える心のトレーニング

[図解] アンガーマネジメント超入門 怒りが消える心のトレーニング

  • 作者:安藤 俊介
  • 発売日: 2018/09/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

石塚由紀夫『味の素「残業ゼロ」改革』日本経済新聞出版社、2019年

 石塚由紀夫『味の素「残業ゼロ」改革』日本経済新聞出版社、2019年。2015年以降の味の素における労働時間削減、在宅ワーク、どこでもオフィス推進、限られた時間でのイノベーティブな仕事への集中などの実践が、時間経過とともに紹介されている。

 社長インタビューなども含めて社内の情報が事細かに記されており、具体的企業の事例研究として大変勉強になる。フリーアドレス化、在宅ワークなど、コロナ時代の働き方改革を先行して実践している内容も含まれており、考えることが多い。電子データ化などの動きも参考になる。

味の素 「残業ゼロ」改革

味の素 「残業ゼロ」改革

  • 作者:石塚 由紀夫
  • 発売日: 2019/10/17
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

永吉希久子『移民と日本社会』中公新書、2020年

 永吉希久子『移民と日本社会』中公新書、2020年。中公新書であるが、本格的な外国人労働者研究に近い。外国人労働者受け入れに伴う労働市場への影響のみならず、犯罪や地域社会への統合といった課題についても、丁寧に先行研究の議論を紹介している。

 外国人技能実習生など各論での分析が主軸である外国人労働者問題を、総論的に扱っている。かつ、そのサーベイが入念である点が特徴。外国人労働者問題の本格的な入門書という内容で大変勉強になる。

 

今野晴貴『ストライキ2.0』集英社新書、2020年

 今野晴貴ストライキ2.0』集英社新書、2020年。ブラック企業と戦う武器としてストライキに着目している。日本は労働争議件数の減少が著しいが、局地的にはストライキもしくはそれに準ずる労働者の戦い方が増えている。例えば、東京駅構内の自動販売機のストライキなどである。

 本書では、保育士の一斉退職、私立学校の教員ストライキ、佐野SAでのストライキなど近年の労働者の抵抗の事実を具体的に取り上げながらも、健全な労働社会を作るための条件を考察している。ケア労働やサービス労働など20世紀型の労働現場とは異なる労働者が主軸となっている点に注意を促している。

 

ストライキ2.0 ブラック企業と闘う武器 (集英社新書)