岩佐卓也『現代ドイツの労働協約』法律文化社、2015年/西村純『スウェーデンの賃金決定システム』ミネルヴァ書房、2014年。

 学会参加するために事前に読んだ2冊。『現代ドイツの労働協約』は協約カバー率低下の下でいかに組合が対抗軸を張っているのかを示す労作。労使関係の緻密な研究書で、単なる制度論に陥らないところが素晴らしい。時間軸を設けることで労組と経営側のせめぎあいがドラマにも似た感覚を持たせる。ダイナミックで、読み応えがある。終章を設けていないこと、日本への示唆が整理されていないことに対する「作品」としての課題を指摘する評価もあるが、それは読者が独自に考えることだろう。ドイツ労使関係の現状を明らかにする著作として、後世に残る研究になるのではないかと思う。
 『スウェーデンの賃金決定システム』は個別事業所への聞き取りを通じて、中央レベルが設定した下限を上回る賃金ドリフトの実態を把握しようと試みる。査定部分への組合関与が依然として強い状況に対して、筆者は疑問を持っているようだが、むしろ標準作業時間の「ごまかし」のような状況の解明が必要。標準作業時間を「ごまかし」によって決定しているとすれば、個別企業の競争力の問題に響く。しかし、スウェーデン自動車産業の国際競争力は依然として高いという評価もある。組合規制による労働者の競争回避と、個別事業所としての競争力確保の両立、それがいかに成し遂げられているのか、興味を持った。
 とはいえ、以上はない物ねだり。前者(=『現代ドイツの労働協約』)も後者(=『スウェーデンの賃金決定システム』)も独自取材と一次資料によって新たな事実を発見をしていることそのものに価値がある。どちらかといえば、前者は労使関係を時系列的に眺めているのに対し、後者はある特定時点の事実関係を整理している。どちらの著作が刺激的に感じるのか、それは読者が抱えている問題関心によるのだろう。

現代ドイツの労働協約

現代ドイツの労働協約