都留民子『失業しても幸せでいられる国』日本機関紙出版センター、2010年

 都留民子『失業しても幸せでいられる国』日本機関紙出版センター、2010年。購入したのはずいぶん前だが、縁あって通読した。フランスでの生活経験もある、フランス社会保障研究者がインタビューに答える形式でフランス社会を縦横に語る。所々に出る筆者のユーモアが心地よい。

 滞在許可のため市役所いくと、バカンスで人がいない。「どうするのか」、と聞いたら、「そのままでよいよ」と、適当な返事がある。そうしたフランス社会の適当さも指摘しつつ、根底に流れる大人社会、多様な家族を承認する力、そして貧困を許容しない制度設計の全体像を力強く明らかにしている。

 内容的にもっとも関心をひいたのは、年金制度と高齢者のリタイヤの話。フランスの高齢者は、余生を大事にする。失業給付がしっかりしていることもあるが、生活保護とあわせて所得保障する。そのため、フランスの高齢者労働力率(65才以上)は2000年で1.3%と驚くほど小さい。日本は20.7%である。

 教育なんて、貧困には無力。社会保障は、「働かなくても食べられる権利」と言い切る筆者のスタンスは明快だ。教育を通じたキャリアアップが自明視される日本で、そのシャープな発言をきくと、はっとさせられる。少し前の本だが、その内容は全く色あせていない。