読書:萩原伸次郎『オバマの経済政策とアベノミクス』学習の友社、2015年。

オバマの経済政策とアベノミクス―日米の経済政策はなぜこうも違うのか

オバマの経済政策とアベノミクス―日米の経済政策はなぜこうも違うのか

萩原伸次郎氏は長年、米国経済白書を翻訳してきたことで知られる。いわばアメリカ経済を熟知したプロである。その著者が、日本のアベノミクスとの対比で本をまとめた。中身は、新聞記事などに紹介されている事実や、研究成果を活かしたと思われるもの、多方面にわたるが、基本的には一般読者向けに書かれている。本書の白眉は、米国のオバマ政権の経済政策をそれ以前のブッシュ政権のそれと対比させている点である。オバマ大統領は、富裕者がより多く課税するバフェットルールの強化を主張したり、1960〜70年代までで引き上げがストップしている最低賃金の大幅引き上げを主張したり、新自由主義的な政策と一線を画している。大事な点は、共和党政権から民主党政権に交代したのは、新自由主義による所得格差と貧困の拡大が、国民の多くに拒絶されてきたからという点である。この点は、ピケティも長期時系列データに基づいて言及している。実際には、オバマの掲げた政策の一部は、共和党の抵抗で実現していない。しかし、方向性としては、「中間層重視の経済学」という対抗軸を掲げている。日本の民主党政権のは、「国民の生活が第一」という新自由主義への対抗軸を掲げて誕生したにもかかわらず、沖縄の米軍基地の移転問題の挫折、東日本大震災後の対応の遅れ、消費税の増税など財界よりの政策に転換する。この間、安保法制で大きな反対運動が起こっているが、民主党社民党共産党国民の生活が第一、維新の党などは立憲主義で野党結集を一部すすめている。初期民主党政権の挫折は、このような社会運動や国民の後押しがなかったことに起因する。反新自由主義という方向性は支持されたのだが、社会運動の後押しがないために、財界や自民党のプッシュで瓦解した。オバマはどうやっていまの政策を動かしてきたのか、これは日本にとっても十分に学ぶ点が多いだろう。ということで、本書の記述はなめらかで、一部誤った記述もある(「キヤノン」をキャノンと表記、「派遣労働者が労働者の3分の1に迫る」と記述)とはいえ、良書である。お勧めしたい(ある雑誌に書評を書いたが、十分に展開できない主観的な意見を書きました)。