松尾匡『この経済政策が民主主義を救う』大月書店、2016年。

 安部政権に対峙するリベラル左派こそ、金融緩和による財政出動を支持するべきだと説く本。全体として筆者の立場はケインジアンに近い印象を受ける。本書では、欧州の左派は緊縮財政に反対し、金融緩和も支持するのが一般的と説明されている。しかしグローバル企業が国内設備投資を増やしうることについての説明は少なかったように思う。

この経済政策が民主主義を救う: 安倍政権に勝てる対案

この経済政策が民主主義を救う: 安倍政権に勝てる対案

 慶応大学の池尾和人教授は日経新聞のインタビュー(2016年2月7日付)で、日銀のマイナス金利政策を、金融政策の限界と見るべきだと指摘したうえで、金融機関の仲介機能の低下を懸念している。そして、貸し出しが伸びない理由として、日本経済に成長期待が持てず、企業や個人から資金需要が生まれない点をあげている。また、資本市場で資金調達が難しい中小企業に対し、銀行の金融仲介機能が低下すれば、負の影響がある点も指摘している。一般論として、金融緩和によって財政規律がプラスの展望を持ちうる可能性はあるとしても、現状の日本経済では実需の面が弱い。この点は認めざるを得ないのではないだろうか。