金成隆一『ルポトランプ王国』岩波書店、2017年。

 金成隆一『ルポトランプ王国』岩波書店、2017年。米国の大統領選挙。ラストベルトとよばれる衰退した工業地帯で、トランプの支持層が多いことに注目し、工場労働者たちに取材をする。没落する中間層の不満を救い上げたのがトランプであるというのが本書の主張である。
 中間層の没落という点では、民主社会主義者バーニー・サンダースの支持基盤も気になる。本書ではトランプ現象の分析に加え、サンダースの支持者の取材も行っている。結論として、米国における中間層の没落は民主党のリベラル政策の頓挫、例えば、NAFTAに対する姿勢の弱さにあるのではないかと指摘している。左派政党がグローバリゼーションのもとで格差と貧困問題に明確な対立軸を立てることが難しくなったこと、そのことがトランプ現象を引き起こしたひとつの要因と見ているように読める。この点では、欧州諸国の左派政党の取材を行ったドキュメント映像『左折禁止 社会民主主義は退潮しているか?』と同じような分析をしている。
 排外主義への対立軸は、結局のところ格差や貧困の対処を用意しているのか。その点で、左派政党の衰退の影響が大きい。既存政党(エスタブリッシュメント)に対する、中間層の忌避感も強い。この点をどう読み解くのか。その点が、この本を読んで得られる示唆だと感じた。