映画:『60万回のトライ』

 東京は田町で行われていたレイバーネット主催のレイバー映画祭に参加。大阪朝鮮高校ラグビー部を素材にした『60万回のトライ』を見る。涙腺緩みっぱなし。その理由はおそらく2つある。
 第1は、ラグビーに関わったものであればおそらく共通の経験として持つであろう事実が描かれていること。例えば、合宿で仲間どおしが喧嘩する。試合中にエースが脳震盪になり、試合に出られなくなる。試合前に儀式としてのタックルダミーへのタックルを行う。これらはおそらくラグビーを経験したものであれば、誰しも「そんなことあったよね」と共感するものである。だからこそ、心が動かされる。
 第2は、在日朝鮮人の置かれた苦悩を描き出している点である。映画の中で象徴的なシーンがある。それは福岡県宗像市で行われたサニックスワールドユース(高校生の世界大会)のとき、大阪朝鮮高校の選手がイングランドの選手と話をした時のことだ。「『お前はコリアンか?』と聞かれて、『そうだ』といったら、韓国代表の選手に『お前は日本人だろ』といわれて悲しかった」。これはおそらく在日コリアンが抱えるであろう共通の課題、アイデンティティの問題を描き出している。
 私は高校時代と大学時代にラグビーをしていた。また大学院進学から一定の時期までレフリーの資格を持ち、ラグビーにもかかわってきた。大学で職を得てから時間を取るのが難しくなり、現在は開店休業状態。お世話になった関係者の方には申し訳なく思っている。だから、この映画はラグビーが持つ魅力を前面に出していて、感動する。
 他方、私はここ数年繊維産業の人材育成について調査研究している。繊維産業は地方経済の重要な雇用の源であるが、国際競争の激化から国内産地は縮小している。その結果、労働力不足対策として外国人研修生・技能実習生が活用されている。その多くは中国など東アジア諸国出身である。ここでは、労働力としてのみ利用される研修生の苦悩が存在する。一言でいえば、外国人労働力の問題である。その点でも、現在の調査研究課題と重なっている。だから興味深かった。
 ラグビーノーサイドの精神からいえば、国籍で差別するのはおかしい。なぜなら、ラグビーの代表資格を持つことは、当該国に3年以上生活していることが条件だからだ。GNPもGDPにかわって、「日本人」であることではなく、「日本国内」で付加価値を生み出すことが基準となっているのに、高等教育無償化だけなぜ格差をつけるのか。高校生にもわかるように説明をしてほしい。