読書:佐野眞一『あんぽん』
- 作者: 佐野眞一
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2012/01/10
- メディア: 単行本
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ソフトバンクの孫正義氏のルーツは佐賀県にある。ノンフィクションライターの佐野眞一氏が、孫正義本人へのインタビューを皮切りに、実の父である安本三憲や親戚に接近し、在日朝鮮人としてのその出自をたどる。鳥栖のプレミアムアウトレットくらいしかしらないが、九州の見聞きした地域が出てくるだけに、ぐいぐい引き込まれる。筆者はその後、韓国に行き、また日本に戻る。また2011年には3.11の大震災と原発事故が起こる。この本の内容も、3.11以降は被災地への寄付をいちはやく行い、「脱原発」をかかげた孫の主張の根拠に迫ることになる。3.11以降脱原発を掲げた孫正義の主張は、保守派やネット右翼が叩くように、「朝鮮人」の人気取りではない。そうではなく、佐賀県の鳥栖市の部落で生活し、豚小屋で密造をすることで生計を立てていた孫正義の一家は、筑豊地域の炭鉱現場とも密接な関係を持つ。そのことから、脱原発はある意味必然であるというのが筆者である佐野の見立てである。
佐野眞一には剽窃の疑いも出ているが、その真偽は定かではない。また橋下徹を題材にしたルポが本人およびその周辺から批判された経緯からして、佐野に対するバッシングを目的にしたものだとも判断できる。佐野本人の弁明もあるようなので、とりあえずその判断は保留する。ただ、ひとこと言えるのは筆者が強調するように、この本はこれまでのどの孫正義の本にもないであろう、そのルーツを丹念にたどった点は価値があるという点である。不思議な存在の孫正義がどのように生まれたのか、手に取るようにわかる。九州の筑豊地域がたびたび言及され、九州弁を話す三憲など、評者にとっても興味深い。多くの人が一読をする価値のある本である。