『就職とは何か』、学生との議論

基礎演習の合宿の素材として検討しました。

就職とは何か――〈まともな働き方〉の条件 (岩波新書)

就職とは何か――〈まともな働き方〉の条件 (岩波新書)

第1章では、大学生の就活スケジュールや若年労働市場の現状(増える就活うつ・自殺、高い失業率と産業予備軍、過去最低の内定率)などが整理され、第2章では、いまどきの就活事情として、インターンシップ、定期採用の日本的特徴、経団連の倫理憲章などの問題が論じられます。第3章では、「雇われて働くということ」というテーマで、男女賃金格差が大きい日本の現実、労働組合の組織率の低下、派遣労働の働き方、働かせ方などに焦点が当てられ、第4章では年間1800時間のからくりが、正規雇用の減少と短時間労働者の増大という、労働時間の二極化現象の視点からあばかれます。第5章では、近年のキャリア教育において、職業生活に適応する能力のみが強調され、労働法などのハードのスキルが欠如している点が指摘され、終章では、DecentWorkにむけたワークシェアリングの重要性が述べられます。

全体として筆者のこれまでの研究蓄積を用いて、現在の若年層の就活事情に焦点をあてた好著と言えます。学生があげた論点の中では、(1)就活を遅らすことが学力低下の克服につながるのか、(2)就活や就職後に使える教育とは何か(3)社会人基礎力で若年雇用問題は解決するのかなどが議論されました。学生があげたのは、労働供給側である学生や若年層がいかに就活で生き抜くのかという論点が多く、それ自体学生が将来設計を心配している事実を表すものとして理解できます。しかし、本来森岡氏が強調するように、会社に適応する論理だけでは若年雇用問題が解決しえないことは、ブラック企業問題の台頭を見ても明らかです。したがって、労働需要側である会社側がグローバル化時代にいかに安定的な雇用を生み出すのか、その条件を探ることこそもっとも大事なテーマのひとつといえます。またワークシェアリングについても実現可能性について疑問の声があがることがありましたが、個別の会社で正社員雇用を徹底しているところやワークシェアリングを行なっているところもあるはずです。また諸外国ではこうした仕事の分かち合いも実際に実現されていることもあることは周知の事実です。

今回の議論を通じて、学生が徹頭徹尾「労働供給側」の立場からのみ思考をめぐらせているということをあらためて痛感いたしました。逆に言えば、個人の体験、身近な問題を社会の問題として考えさせるための仕掛けや議論も必要なのではないかと思います。