読書『ヒーローを待っていても世界は変わらない』他4冊

気が付いたら11月になっていました。10月中に読んだ本を紹介します。

ヒーローを待っていても世界は変わらない

ヒーローを待っていても世界は変わらない

話題の新著です。社会運動家から政策の一翼を担う立場になってからの苦悩が書かれています。同時に決められない政治からの脱却という巷でよく聞かれるフレーズに対しては、「熟議を重ねることこと民主主義だ」との正論をかましています。いや、ほんとに、「決められない政治」が問題なのではなく、政策論議をせず、政情にばかり流されることが問題なのですよ。おそらく、一番左の人から一番右の人までたくさんの考えがある中で、政策の一致点をいかに見出すかが現実の政治では重要なのですよ、との指摘は議論を呼ぶところだと思います。が、全体としてすとんとおちる記述が多かったです。
これならわかる日本の領土紛争―国際法と現実政治から学ぶ

これならわかる日本の領土紛争―国際法と現実政治から学ぶ

比較的最近、すこし論点を整理したくて。しかも左翼の立場から領土問題はどのように理解されるのか知りたくて。1読した限りでは、すとんと文章化できないのだけれど、実質的な利益を取るのが領土問題の本質というのは合理的な考え方だと思う。
大学破綻 合併、身売り、倒産の内幕 (角川oneテーマ21)

大学破綻 合併、身売り、倒産の内幕 (角川oneテーマ21)

著者の方はテレビで見かける以外、ぜんぜん知らなくて、「そもそも何の研究者なんだろう?」と思っていた。彼は1流の研究者の道は途中であきらめ、管理職として米国で働いた経験を持つらしい。どうやらアメリカではそういった人が多いとのころ。さながら所有と経営の分離が進むといった感じでしょうか(違うか)。内容は基本的に正論を説いています。きちんと役割を踏まえた大学体制を作りなさい。大学全入時代に東大や一橋でやっている研究大学のスタイルの授業を学生に行っても、響かないし、存在意義はないですよ。あるいみでは「勉強のできる受験生は落とす」の覚悟も必要というのは、全国に大学が700(でしたっけ?)近くある現状ではおっしゃる通りと思います。ときおり米国流の市場原理主義的考え方も入り込むこと、やや教授会や大学の自治を軽視していること(米国ではそのような考えが多いのか?)が気になりますが、全体としては良書だと思います。上の本を読む前に読んだ本。論旨は似ています。でも、内容はもっと砕けているというかわかりやすいかな。あるべき大学の姿ってなんだろう、大学生と一緒にゼミで読んでみるのもいいかもしれません。
私たちはなぜ働くのか マルクスと考える資本と労働の経済学

私たちはなぜ働くのか マルクスと考える資本と労働の経済学

著者とは面識もないのですが、買ってみました。労働を中心に読み解く、資本論1巻のエッセンスといった感じのテキストです。資本論1巻レベルを対象としながらも、福祉国家労働組合の意義などかなり現代的なところも意識して書かれています。つまりむき出しの資本主義では労働者も社会も報われないのだぞ、というのがメッセージでしょうか。なので労働者よ団結せよ、社会主義革命を目指せ!ではなく、まずは福祉国家型の社会を作ろうよ!という穏健的(いや、革新的でしょう)な提言が最後の結論です。自分はわりとスラスラ読めましたが、この分野になじみのない読者はどう感じるかは別問題です。しかし、なぜ経済学研究科ではなく、社会学研究科で学ばれたのだろう。