軟らかな鎧

教育の職業的意義―若者、学校、社会をつなぐ (ちくま新書)

教育の職業的意義―若者、学校、社会をつなぐ (ちくま新書)

本書のキーワードをあげれば、職業的レリバンス、「柔軟な専門性」、そして「適応」と「抵抗」である。本書の問題意識を端的に示すのは、序章の次の記述である。

「これまでは職業的意義を求められずにすんできた教育が、その外部では保証されなくなってきた職業能力形成機能を――少なくとも部分的には――担うようになる必要がある。それは単に従来の企業中心の人材育成の後退を補うためためではなく、従来の企業依存的な人材育成の問題を積極的にただすためにも必要である」(10)。

この記述に説明は不要であろう。企業社会が崩壊する中で、新規学卒一括採用の方式もまた変容をし、学校の職業的意義が検討されるべきであるというのが基本的な骨格である。また、著者が仕事の世界で身に着ける技術を、1)「働く者すべてが身に着けておくべき、労働に関する基本的な知識」=「抵抗」と、2)「個々の職業分野に即した知識やスキル」=「適応」に分類するのも大変ユニークである。

全体として考えさせる点、分からない点が混在する。自分自身の感覚で言うと、大学教育の職業的意義、キャリア形成に果たす役割はよく分からない。大学ではたんに論理的な思考能力、ゼミナールでの発表能力だけでは足りず、もっと社会で必要な専門的能力を身に着けるべきだとの意見がある。一方で、大学では専門的な知識は必要ではく、もっぱら教養を身につけるべきだとの意見もある。著者の言う「適応」力は大学内部でもっとも議論されている。しかし、「抵抗」力についてはどうか。著者が指摘するように、若者に労働法などの基本的知識を提供することと並行して(この点に異論はない)、若干遠回りになるが、批判的な読書力や議論をする力を身に着けることが必要ではないだろうか。

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