なぜ君は総理大臣になれないのか

 「なぜ君は総理大臣になれないのか」。立憲民主党議員の10年間に及ぶドキュメント。30歳前後で初当選したときの映像から、民主党政権の挫折を経て、2017年の小池新党結成による離合集散に巻き込まれる様子が紹介されている。一番のユニークさは、10年以上フォローしている点だろう。最初はお子さんも小さい。幼子を義母に預け、選挙支援をする妻の姿が出てくる。小池新党=希望の党への移行のころには、子供たちは20歳前後になっている。選挙の応援もしている。そのなかで、「安保法制に反対していたじゃろが!」と市民から、罵倒も受ける。この辺りはシビアである。

 選挙のドキュメント映画はいくつか見たことがある。日本のどぶ板選挙について、想田監督の『選挙』がある。今回の映画もそれに近いが、いずれも日本の選挙における家族総出の宣伝活動方法が気になった。逆に、女性候補者の場合は、どのように家族が支援するのか。やっぱり夫がチラシづめをしたり、応援演説の際の手伝いをしたりするのだろうか。

 主人公の政治家にはとても親近感を持った。政策通であるが、政党の中で上位に位置しない。ただし、裁量労働制のデータ偽装問題でも鋭い質疑をしている。こうした政治家の方がきちんと評価されるようになれば、日本の政治はよくなるのではないかと思う。選挙や政治の入門としてみても面白い。

 

 

ノマドランド

ノマドランド。アカデミー賞受賞作品、ようやく見た。米国全土をクルマ一つで移動するノマドがテーマ。Amazonで働いたり、飲食店で働いたり、移動先で仕事をする。基本的には拠点を持たず、バンの中で生活する。ノマドたちが集まる集会のようなものもある。

 

 

白鵬引退のNHKスペシャル

白鵬引退のNHKスペシャル。孤独な横綱の趣旨はよかった。膝の水を注射で抜く白鵬をみて、お嬢さんが「私も将来白鵬になったら、こうなるのかな」といったのも、なんだか笑えて、ホロリときた。結局横綱の品格という曖昧な言葉を、勝つことが品格と理解した白鵬は、ある意味正しい。もしかち上げや突っ張りが問題ならば、道徳的に攻めるのではなく、反則にしないと筋が通らないんじゃないな。白鵬が感じてきた孤独は、横綱だからではなく、その部分以外の外国出身力士だから、の要素が大きい。結局のところ、大相撲における外国人差別の問題に行き着くのでは?と感じた(*_*)。

 

諸井克英(2021)『表象されるプロレスのかたち』ナカニシヤ出版

 諸井克英(2021)『表象されるプロレスのかたち』ナカニシヤ出版。図書館でざっと読んだけれど、面白かった。心理学者による本格的な研究書の体裁をとっている。ざっと読んだ限り、脚注もしっかりしている。まずは女子プロレスの試合で起こったナックルパートによる流血事件を手掛かりに、プロレスとは何かを考察している。

 そのうえで、佐山聡ミスター高橋などのある種の内部告発的な著作を手掛かりに、八百長とは何か。ギミックと何が違うのか。観客が求めるプロレスの役割とその逸脱とは何なのかを考察している。全体として、プロレス論議にありがちな八百長・非八百長というあまり建設的ではない議論を乗り越えて、プロレスの空間の意味を考察しているのが、面白い。

 プロレスで想定される予定調和的なストーリがあって、そこを逸脱する。その場合、プロレスファンは喜ぶ。ただし、ハルク・ホーガンラリアットを食らった猪木が、リングサイトで舌を出して失神したことに象徴されるように、それが行き過ぎると歓迎されない。行き過ぎは、失笑を買い、批判の対象となる。他方で、晩年のジャイアント馬場のキックには、馬場が倒れないよう、相手選手が配慮しながらぶつかっている。この場合は、それを楽しむ観客がいる。観客が期待するストーリーとそこからの逸脱、このあたりのバランスを絶妙に整理している。

 本文の写真の多くが筆者撮影となっている。このことから、筆者が実際に多くのプロレス観戦を行い、そのことを踏まえた文献研究を行っていることがうかがえる。そのことも、分析内容の説得力というか、信頼感を高めている印象がある。

 

青野慶久(2015)『チームのことだけ、考えた。』ダイヤモンド社

  青野慶久(2015)『チームのことだけ、考えた。』ダイヤモンド社同志社大学の鈴木良始教授の論文で、ボトムアップ型組織の事例としてGoogleと並び、サイボウズ社が取り上げられていた。サイボウズ社は名前は知っていたが、どのような位置づけをされているのか、詳しく知りたいと思い読んだ。

  サイボウズ立ち上げから、スタートアップ企業にありそうな長時間労働、休暇なしの働き方。組織が拡大し、従業員が拡大し、長時間労働などの働き方に共鳴できない人々も増えていく。多様な価値観をとりまとめる中心軸がないなかで考えられた「世界一のソフトウェアグループを目指す」というミッション。

 組織形態が落ち着いてからも、コンセプトや議論の仕方、成功と失敗の定義など、青野社長独自の工夫や捉え直しの事例が紹介されている。これを読むと現状をよしとせず常に改善しようとする。現状に満足せず、改革を厭わない。そんな社長であっても決断や判断に迷うことがある。この苦悩がわかる。