藤島大『北風』集英社文庫、2018年。

 藤島大『北風』集英社文庫、2018年。地方公立高校出身の主人公が、早稲田のラグビー部に入ってからの日常生活を描く小説。あくまで小説ではあるけれども、早稲田ラグビー部の関係者の描写にリアリティがある。外部の人間にとっては、きっとこんな感じなんだろうな。想像にすぎないが、それが面白い。時代設定としては、90年第後半前後の早稲田ラグビー部。あるいは、もう少し前かもしれない。生き生きした描写に引き込まれる。

 

 

ハーヴェイの中国経済分析

 ハーヴェイの新自由主義、中国の章を読んだ。あらためて読むと、沿岸部の発展、鄧小平の南巡講話、資産バブルの発生など時系列によく整理されている。支配政党(中国共産党)とローカル権力者が癒着するというのも米国と同じと捉えている。10年以上前の分析だが、さすがという印象をもった。

 

新自由主義―その歴史的展開と現在

新自由主義―その歴史的展開と現在

 

 

大教室における受講者同士の議論

 講義。リアクションペーパーを配る。集約して新たな論点や掘り下げるべき点を解説する。関連する映像をみて、コメントを書いてもらう。このやり方は受講者の感想がわかっておもしろいという意見がある一方、情報のやりとりは、個々の受講者と教員のあいだに止まっている。

 講義をきく。課題を考える。大教室であっても受講者同士の議論の時間があってもよい。そのクッションをはさむことで、発言すること、情報を自分のこととして受け止めること。それが可能になる気がする。

中村文則さん原作:映画『銃』

 中村文則さんの原作『銃』を映画でみた。ピストルを拾った大学生が、凶器を手にしたことで強気になる。気持ちがのっていく。ピストルを使ってみたいと考える。その心理の変化を描く映画。公園で猫が人為的に殺されたことをきっかけに、刑事が訪ねてくる。刑事の推測をもとに、犯人である、やがては、猫ではなく、人間をうちたくなる、と指摘される。人間をピストルでうつと、理性が狂う。そうした刑事の指摘を受けながら、悶々としつつ、着実に人間をうつ準備を進める。そんなお話。

 中村文則さんのべつの小説を読んだことがある。刑務所で働く青年の屈折した感じ。青年の将来不安や性への目覚め。そのあたりの描写がうまいと感じていた。今回の映画も、そのような青年の屈折した感覚をよく描いているように思う。

映画『銃』公式サイト

銃 (河出文庫)

銃 (河出文庫)

 

 

在留資格・介護

 在留資格、介護。EPA技能実習とは別に、2017年度に創設された新たな在留資格。留学生として来日し、介護福祉養成施設で2年以上就労、社会福祉士の資格をえたあと介護福祉士として働く。その際に在留資格が、留学から介護に変わる。このような仕組みがあることを知らなかった。

 日本で留学生として学び、アルバイト経験をつみながら、一定の職種に入職する。当然、技能実習生とは違うので、職場選択の自由はある。縫製産業でも、専門学校の留学生をインターンシップとして受け入れ、その後実際に働いてもらう。そうした事例はある。割と可能性のある制度設計なのではないか。

平成28年入管法改正について

www.immi-moj.go.jp

NHK「発達障害って何だろうスペシャル」(2018年11月24日放送)

 NHK発達障害って何だろうスペシャル」(2018年11月24日放送)。この番組、とても良かった。以前から発達障害に該当する人はいたんだろうと思う。でも、それが社会的に発見されている。問題は、発達障害に該当する場合であっても、生活しやすい、しにくい、仕事がしやすい、しにくいは環境が規定すること。このお三方の事例はとても、勉強になる。

 

NHK健康チャンネル】「発達障害って何だろうスペシャル」未公開映像① 収録後インタビュー「小島 慶子 さん」 

www.nhk.or.jp

姫野カオルコ『彼女は頭が悪いから』文藝春秋社、2018年。

 姫野カオルコ『彼女は頭が悪いから』文藝春秋社、2018年。東大生らによる女性集団暴行事件を手がかりに着想された小説。あくまで、フィクションだが、実在の事件を相当意識した中身となっている。主人公は二人。東大在学中の男性と、女子大在学中の女性。小説は二人が大学に入る前から始まる。男性は高校時代から東大目指して受験の準備をする。偏差値エリートである。女性は地元の平均程度の高校に通う。いたってふつうの女性である。

 大学生になったふたりは偶然出会い、恋に落ちる。しかし、その恋愛は長くは続かない。そして、ある飲み会で事件が起きる。男性の友人も含めて、飲み会で自宅に連れ込まれ、乱暴・暴行を受ける。集団暴行事件が明らかになる中で、男性たち自身も性行為を望んでいないし、実際にしていなかったということが明確に語られる。本書では、ただ単に、東大生が、東大生以外の女子学生を見下して、嫌な思いをさせること。その1点に問題の根深さを求めている。

 全体として実際に報道された事実の嫌な感じが存分に描かれている。こうした事件が起こると、「女性にも過失があったのではないか」とバッシングされる状況にも、警鐘を鳴らしている(小説なので、具体的にそう指摘しているわけではない)。小説では事件そのものよりも、数年前からの当事者の生活、家族構成、などを丁寧に描くことで、必然的にその事件が起こったように描写している。読んでいて気分は良くない。むしろ吐き気を催すような描写がある。けれども、日本のハラスメント体質、上下関係、学歴社会に規定された男女間格差。これをものすごく見事に描いているように思える。

 

彼女は頭が悪いから

彼女は頭が悪いから